武家屋敷や小泉八雲旧居が並ぶ塩見縄手。ヘルンさんの郵便受けやバス停も江戸時代に合わせた雰囲気のものばかり。
実はそんな塩見縄手には「高価な茶道具や陶磁器」がたくさん見られる場所があります。
田部美術館です。開館は1979年と比較的新しめ。
西洋的に見えつつも、松江の景色に溶け込む建物は、建築家「菊竹清訓」氏が設計したもの。菊竹氏は江戸東京博物館の設計者でもあります。
屋根が「たたら製鉄」の炉を思わせる雰囲気です。
入口から続く回廊もとても素敵な雰囲気。
ロビーでは生け花がお迎え。
ところで、田部美術館の「田部」という名がどこから来ているか不思議に思いませんか?
「田部」は、奥出雲の山林王の姓。田部家は出雲地方の財閥と言っても過言ではない家で、島根県民なら誰でも知っている名家。田部家の当主は代々「長右衛門」の名前を世襲。
田部家は多くの会社をバックアップすると同時に、「長右衛門さん」は、謙虚なお人柄で島根県民に愛されています。
田部家は戦国時代に奥出雲に住み始め、たたら製鉄を始めた名家として君臨。そのため江戸時代の大名の所持品など多くの書画、骨董を所持することになりました。
名家というのは、おもてなしも大事。美術館レベルのものを家に持ち合わせていないと、お客様を呼ぶのに支障があるんですね。
しかし、所持数が破格の数でもあったことから、今の長右衛門氏の祖父に当たる第23代田部長右衛門が「所持品を広く皆に観てもらうことが大切である」という意向を示し、立地条件も良い塩見縄手に美術館を作り、所持品を展示することになったそうです。
ロビーには美術館の創設者23代「長右衛門」氏の写真も飾られています(正面にあるのは24代目のもの、23代目の写真はフレームアウトした右手にあります)。
出雲の財閥が集めた600年間の銘品
田部美術館は、展示室が3つに分かれていてそれぞれ展示内容が異なります。第1展示室には、楽山焼や布志名焼という出雲地方のご当地窯の作品を展示。
田部家が所有していたものだけではなく、いろいろな家や場所から寄贈された美術品も展示されています。田部美術館は出雲の銘品が集まりやすい場所でもあるんです。
江戸時代から、海外ウケを狙った明治の作品まで、同じ窯でもいろいろな作品があるのが見どころ。ちなみに、布志名焼は、土つくり・絵付けなどが分業制であったよう。
こちらが代表作。この2つの窯は今でも作品を作っています。お土産品などを後で見てみると楽しいかもしれません。
続いて第2展示室へ。
第2展示室は、お茶に必要な道具一式を集めた部屋で、小さな庭もしつらえてあります。展示室というより「お茶を学ぶ場所」という感じ。
掛け軸は、松江藩でも1番有名な「お茶の殿様」不昧公(松平治郷)のもの。
しかし、この中身をよく見ると「暑くてかなわんかったが‥」というような、かなりくだけた手紙。
こういうものでも、掛け軸になるんですね。おそらく書いたご本人が1番びっくりでしょう。
訪れたときは「冬を迎えて」という設定になっていました。掛け軸も書かれた日付は「霜月」。暑さが恋しい手紙です。こういうものを見ると、ハードルの高い茶道もぐっと身近になりそうです。
続いて第3展示室。部屋に入ると、すぐあの有名な北大路魯山人(きたおおじろさんじん)の作品がずらりとあります。
とっても武骨なイメージ。この部屋はいわゆる銘品が多く置かれています。出雲地方の落ち着きから、ちょっとイメージが変化した感じのお部屋、一般的な美術館といった趣です。
展示室からロビーに戻る階段も要チェック。館内全体が木製のとても落ち着いた空間で、透かしなどがうまく入って、灯りもほどよい感じ。とても計算された雰囲気の建物です。
展示室の撮影はNGです。今回は特別に許可を頂きました。庭やロビーの撮影はOKです。
お茶室で至福のひと時を
展示品を鑑賞してさぁ帰ろう…ではとてももったいないです!実は田部美術館ではお茶を頂くことができます(菓子付/410円)。
お茶を飲みたい場合は、受付でその旨伝えると良いですが、飲むつもりではなかったけど気が変わったというときは、お茶の部屋でカーテンの奥にいるスタッフさんにひと声かければOKです。
田部美術館は周辺施設に比べて、かなり人が少ない場所。お茶席も多くて3人ほどしか人がいません。おひとりさまにはピッタリの空間です。
この庭の外は、車が走る通り。庭の向こうには塩見縄手や松江城のお堀沿いの木がちょっぴり見えます。外には観光客や車がたくさん。そう考えると贅沢な気持ちになれますよ。
お茶碗は現代作家さんのものとのこと。人により出てくる茶碗が全く違うよう。まさに一期一会ですね。
庭園に出てフォトジェニックな時間を
お茶を頂いて上質な空間に満足したらぜひ庭にも出てフォトジェニックな時間を楽しみましょう。建物に入る回廊から庭園へ入る庭石があり、そこから自由に出入りできます。
撮影もし放題で、秋は紅葉も美しいです。松江城周辺は景色がとてもきれいですが、意外に観光客が多く、自撮りの背後に人が入ってしまうなんてことも珍しくありません。
ここならゆっくり自撮りが可能。
意外な名所であるため「ここはどこでしょう?」と書き、SNSにアップするのも楽しそうです。ヒントは庭園にある銅像(23代長右衛門さんです)。
歴史と伝統の町、松江市。松江城周辺には美しいものがたくさんありますが、「美術品を集めています」と明言している所は意外に少ない。そんなエアポケットスポット、それが田部美術館。
受付横には関連書籍もあります。松江に「茶道具や骨とう品を観に来た」という人は必見ですよ。
- 料金:大人620円
- 営業時間:9:00~16:30
- 定休日:月曜日(祝日は開館)、年末年始(例年12/29~1/1)
- アクセス:JR松江駅からレイクラインバスで15分、「小泉八雲記念館前」下車
- Web:https://www.tanabe-museum.or.jp/